めむろ国語専門塾
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小さな国語塾のつぶやき
正直な視点
中学2年生の教科書に山川方夫の「夏の葬列」という小説が載っている。「主人公が久しぶりに故郷を訪れる。彼は戦時中、米軍の機銃掃射を受けたのだが、そのとき近くに年上のひろこさんがいた。ひろこさんは主人公を守ろうと近づいてくるのだが彼女は白いワンピースを着ていた。この色は目立って標的になると思った主人公は彼女を突き飛ばしてしまう。そこに機銃掃射。ひろこさんは血まみれになりその後どうなったのかよく分からないが、彼女を殺してしまったのではないかというのが主人公の心の重荷であった(この時にひろこさんは亡くなった)。主人公は久しぶりに訪れた故郷で「葬列」に出くわす。主人公は『ひろ子さんは自分が突き飛ばした時に死んだのではなかった!』と一瞬喜び罪の意識がなくなるが、実はそれは『ひろこさんの死がショックで気がふれてしまったひろこさんの母』の葬列だったのだ。以来主人公は二つの罪を背負うことになる。」というあらすじ。この小説が来月に行われる中間テストの範囲になっているため必死で勉強していた中2のS君がポツリと一言「この主人公って悪くないと思うんです。白い色が爆撃機の標的になるからひろこさんを突き飛ばしたわけでしょう?それって当然だと思うんです。僕だっていくらひろこさんが僕を助けるつもりで僕に近づいてきたとしても『あっち行け!(爆撃の標的になって死ぬのは嫌だ)』と突き飛ばして自分は逃げると思うんです。ひろこさんが死んだことは主人公は知らなかったわけだし、そもそもこれは事故なんだから気にする必要ないと思います。先生だったらどうしますか?」と。思わずウッと詰まってしまったけれど正直に「私も同感。私が主人公の立場だったら間違いなく同じようにひろこさんを突き飛ばす。そしてここまでの罪悪感を持つかどうかは分からないかなああ。」と答えた。その瞬間に、ある読書感想文に関する記事を思い出した。それは「新美南吉作の『ごんぎつね』を読んで『ごんが最後に火縄銃で撃たれたのはある意味自業自得だ。散々悪いことをしていたわけだから兵十がごんに対して思わず火縄銃を向けたのは当然で兵十は悪くない』という読書感想文をネット上で公開したところ賛否両論でかなり盛り上がった」という記事をを思い出した。理由はどうであれ結果として他者を殺してしまった登場人物≒よくない、殺された側がかわいそう!的な意見が大半であろう中、その意見を鵜呑みにして同意するよりも違った視点から物事を見て感想持つということ自体は素晴らしいと思う。さすがに中2のM君は先の感想を他言はしないそうだけど、一つの意見・感想として尊重したい。
2017/11/24 03:43
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